神戸地方裁判所 平成7年(ワ)1233号 判決 1996年9月06日
原告
場知賀礼文
ほか五名
被告
岡本美芳
主文
一 被告は、原告らに対し、各金二四〇万六五九四円及び右各金員に対する平成四年九月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用はこれを三分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
四 この判決の第一項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告らに対し、二二六〇万四三二七円及びこれに対する平成四年九月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、交通事故により死亡した訴外バプテイスト・ヨセフ(以下「亡ヨセフ」という。)の兄弟である原告らが、被告に対し、民法七〇九条により、それぞれ損害賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実等
1 本件事故の発生
(一) 日時 平成四年九月三〇日午後七時一五分頃
(二) 場所 兵庫県姫路市本町六八番地先横断歩道(以下「本件横断歩道」という。)
(三) 加害者 被告運転の普通貨物自動車(軽四)
(四) 態様 亡ヨセフが本件横断歩道上を西から東に向かつて歩行中、被告が加害車を運転して北進して来て亡ヨセフに衝突した。
(五) 結果 亡ヨセフは、脳挫傷、右尺骨々折等の傷害を受け、平成四年一一月九日午前三時二〇分頃、右傷害に基づく心不全により死亡した。
2 被告の責任
被告は、本件事故当時、加害車を運転し、時速四〇キロメートルの速度で北進し、本件横断歩道に差しかかつたのであるから、減速徐行のうえ、同横断歩道の横断者の有無及び安全を確認して進行すべき注意業務があるのに、これを怠つて進行したため同横断歩道上にいた亡ヨセフの発見が遅れて自車を同人に衝突させて同人を死亡させたもので、徐行義務及び前方注視義務を怠つた過失があり、民法七〇九条により、同人が受けた損害を賠償する責任がある(甲二、三、六、七、九)。
3 身分関係及び相続
亡ヨセフは、ベルギー国籍で、妻子のいない独身者であり、原告らは亡ヨセフの兄弟姉妹である。
亡ヨセフの兄弟姉妹である原告らは、ベルギー国の法律により、法定相続人として亡ヨセフの権利義務を均等の割合で相続した。
二 争点
1 過失相殺
2 原告らの損害額
第三争点に対する判断
一 過失相殺について
1 証拠(甲二、三、五ないし七、九、弁論の全趣旨)によれば、次の事実が認められる。
(一) 本件横断歩道は、片側各一車線の車道に設置されており、信号機は設置されていない。その付近は、市街地であるが、交通量は普通である。
本件事故当時、既に暗くなりかけていたが、本件横断歩道付近にはある程度の間隔をおいて街灯が設置されていた。ただ、一番近い街灯は点滅の状態であつた。
(二) 被告は、本件事故直前、ライトを点灯して加害車を運転し、時速約四〇キロメートルの速度で北進し、約五〇メートル手前で本件横断歩道上を見て歩行者のいないことを確認し、前方の信号を見ながらそのままの速度で進行を続け、同横断歩道上を左から右に小走りで横断して来た亡ヨセフを左前方約九・七メートルに認めて急ブレーキをかけたが、約九メートル前進した地点で、自車前部を同人の右側に衝突させ、同人を一一・六メートル跳ね跳ばし、六・三メートル前進した地点で停止した。なお、加害車のスリツプ痕は右が三・九メートルで、左が〇・七五メートルと五・三メートルであつた。
2 右認定によれば、亡ヨセフは、本件事故当時、横断歩道上を横断中であつたが、既に暗くなりかけ、少なくとも非常に明るいとはいえない場所を小走りに横断していたのであるから、全く過失がないとはいえない。
しかしながら、被告は、本件事故直前、本件横断歩道を横断しようとする歩行者がないことが明らかな場合でなかつたから、当該横断舗道の直前で停止することができるような速度で進行しなければならない義務があつた(道交法三八条一号)のに、減速しないで時速四〇キロメートルの速度で進行を続け、前方注視も十分でなかつたため、亡ヨセフの発見が遅れて同人に衝突させたもので、その衝突の程度も相当大きいから、その過失は誠に大きいというべきである。
その他本件に現れた一切の諸事情を考慮のうえ、亡ヨセフと被告の過失を対比すると、その過失割合は、亡ヨセフが五パーセント、被告が九五パーセントとみるのが相当である。
二 原告らの損害額について
1 亡ヨセフの損害
(一) 治療費(請求及び認容額・二〇六万九九六七円)
亡ヨセフが、本件事故による受傷の治療のため、治療費合計二〇六万九九六七円(阿保病院分一六五万五八三七円、姫路聖マリア病院分四一万四一三〇円)を要したことは、当事者間に争いがない。
(二) 付添看護費(請求及び認容額・二三万六八一〇円)
亡セヨフは、本件事故による入院中、付添看護を必要とし、その費用として二三万六八一〇円を要したことは、当事者間に争いがない。
(三) 葬儀関係費用(請求及び認容額・五七万一一三五円)
カトリツク淳心会により、亡ヨセフの葬儀が執り行なわれ、その費用として五七万一一三五円を要したことは、当事者間に争いがない。
(四) 逸失利益(請求額・一一四四万六三六七円) 五四九万円
証拠(甲五、一一、証人場知賀礼文、弁論の全趣旨)によると、亡ヨセフは、昭和五年一月一九日生まれ(本件事故当時六二歳)の独身で、カトリツク教会の宣教師や教師をしたりしていたが、本件事故当時、教会で船員司祭として船員に対する奉仕活動をし、住宅費を除いて年間一〇〇万円程度を教会からもらい、質素な生活をしていたことが認められる。
右認定によれば、亡ヨセフは、本件事故当時、原告ら主張の平均給与年額三八九万七一〇〇円を得ていたとは到底いえず(甲一一の記載も右認定を左右しない)、年間一〇〇万円程度の収入を得ていたとみるのが相当である。
ただ右の収入は、亡ヨセフの職業内容を考えると、いわゆる就労可能年齢の六七歳に達するまでではなく、同人の平均余命が約一八年であることなどから、七七歳位までは継続するとみることとする。
また、その生活費は、亡ヨセフが独身で、質素な生活をしていたことなどから、年間一〇〇万円の収入の五〇パーセントとみるのが相当であり、その収入が低いからといつて被告主張の一〇〇パーセントの生活費を採用することはできない。
そこで、亡ヨセフの死亡当時の逸失利益の現価額を、ホフマン式計算方法に従い、中間利息を控除して算定すると、次のとおり頭書金額となる。
1,000,000×0.5×10.980=5,490,000
(五) 慰謝料(請求及び認容額・二〇〇〇万円)
本件事故の態様、亡ヨセフの受傷内容と死亡に至までの経過、同人の年齢及び家庭環境等、本件に現れた一切の諸事情を考慮すると、同人の慰謝料としては二〇〇〇万円が相当である。
2 過失相殺
亡ヨセフの損害額合計は、右1の(一)から(五)までの合計である二八三六万七九一二円となる。
そこで、亡ヨセフの右損害賠償請求権につき、前記五パーセントの過失相殺をすると、その後に同人が請求できる損害賠償金額は二六九四万九五一六円となる(円未満切捨)。
3 損害の填補
亡セヨフの右損害に対し、合計一三七六万九九五二円の損害が填補されたことは、当事者間に争いがない。
従つて、その控除後に亡ヨセフが請求できる金額は一三一七万九五六四円となる。
4 相続
原告ら六名は亡ヨセフの兄弟であるから、亡ヨセフの前記損害額の六分の一である二一九万六五九四円をそれぞれ相続したことになる。
5 弁護士費用(合計請求額・二〇五万円) 各二一万円
本件事案の内容、訴訟の経過及び認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては原告ら各自につき二一万円と認めるのが相当である。
三 結論
以上のとおり、原告らの本訴請求は、被告に対し、主文第一項の限度で理由があるからその範囲で認容し、その余は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 横田勝年)